田舎に生きるふつうのおばさん2

北海道の田舎で農業を営むおばさんです

いずみ その4

私が嫁いだとき 姑はすでに他界していた
 
亡くなったのは夫が中学3年生の時
 
妹はまだ小学校5年生だった
 
その前2年ほど入院していたと聞いている
 
それから男手一つで二人の子を育てながら 
 
働くだけ働いて63歳で逝ってしまった舅の話
 
 
平成3年3月28日掲載
 
焼酎
 
夫は毎日 コップに2杯 焼酎のお湯割りで晩酌をする
 
何を思ったか「このコップいくら入るんだろう」と はかりはじめた
 
その姿を見て 三年前に亡くなった父を思い出した
 
父も晩酌を欠かさなかった 
 
母を早くに亡くし 働きに働いてきた人
 
唯一の楽しみが毎日の焼酎だった
 
私はそそっかしく よくコップを割っては新しいのを買ってきた
 
すると父は「このコップの方がたくさん入りそうだ」と 必ず晩酌に そのコップの使い初めをした
 
「どれも同じだよ」と言っても「そうでもないべ」と笑いながら飲んでいた
 
父はお昼にも 午後の仕事の馬力づけに飲んだ
 
台所で溢れんばかりになみなみとついで チュッと一口すすってから テーブルへ持って行く
 
嫁いだばかりの頃はよく「お前も飲まんか」「遠慮するな」とコップを差し出された
 
残念ながら私は全くの下戸 下戸はお酒を勧めるのもへたで
 
ついぞ父に お酌をしてあげぬままお別れをしてしまった
 
ずいぶんと気の利かない嫁で がっかりしたことと思う
 
 父が亡くなって初七日の前日 夫の妹に留守を頼んで外出したとき
 
戸棚でガタンと音がするので見に行くと 焼酎の瓶が揺れていたという
 
後ろの物が崩れて瓶を揺らしたらしかったが 
 
これはきっと父がやったんだ ということになった
 
「嫁が気が利かないから娘に頼んだのかもね」と さっそく仏壇に焼酎を供えた
 
相変わらず気の利かない嫁も その時ばかりは コップになみなみとついであげた