田舎に生きるふつうのおばさん2

北海道の田舎で農業を営むおばさんです

かあさん

子供の頃 いつも かあさんを待っていた

遅くまで 畑から帰ってこない かあさん

鶏小屋に行って なかなか帰ってこない かあさん

牛のえさをやりに行って 全然帰ってこない かあさん

ある秋の風の強い夕暮れ

かあさんが畑から帰ってくるのを 一人で待っていた

薄暗くなってきたのに かあさんは帰ってこない

いつも 裏の川で靴を洗ってから 家に入るかあさん

裏の窓から じっと見ていると 

かあさんの三角帽子の端っこが

風に吹かれてひらひらと見える

かあさんかあさん 

隠れたって見えてるよ かあさん

嬉しくなって 何度も かあさんと呼んだ

いつまでも隠れているかあさんが 可笑しかった

三角帽子の端っこは 風に吹かれたまま

何度呼んでもかあさんは こっちを見てくれない

かあさんかあさん

かあさんはいつまでたってもも答えてくれない

三角帽子だと思っていたのは 

窓に貼ったビニールが破れて風に吹かれているだけだった


今はかあさんが私を待っている

男並みに働いてきたかあさんは 滅多に弱音を吐かない

そんな かあさんが

腰が痛い

手がしびれる

大根も1人で抜けなくなった

と言うようになった

私が行くよと言うと喜んで

じゃあ明日大根を抜こう

と言う

かあさんかあさん

私が呼んでも

今もやっぱり かあさんは

返事をしてくれない

かあさんは

耳が遠くなった