田舎に生きるふつうのおばさん2

北海道の田舎で農業を営むおばさんです

大人になった 北海道新聞 北極星 12月26日掲載

 冷蔵庫の扉を開けると、いきなり頭に何かがぶつかった。

あっ、と落ちていくものを見ながら体が動かない。

ジュースだ、と思うと同時にガラス瓶は床に落ち

中身のしぶきとともに粉々になってあたり一面に飛び散らかった。

 痛いおでこを押さえながらしばし呆然。

誰がこんなところにガラス瓶を入れたのか。

ここは怒るべきか、

まてよ、私の扉の開け方にも問題があったかもしれない。

いやしかし、こんな不安定な場所に背の高い瓶を入れる方が悪い。

いや、贈られたジュースをいつまでも片付けなかった自分も悪いのだ。
 
 みるみる腫れてくるおでこをさすってそんなことを考えていると

茶の間から「あんたも大人になったね」と夫の声。

 夫の言わんとすることはよくわかる。

今までの私なら瓶が落ちた瞬間、

手でつかまえることは出来なくても素早く足を出して受け止め、

ワンクッションはさんでから着地させていたはずだ。

そして同時に「誰がこんなところに入れたの」と怒鳴っていた。

 瞬間に体も動かず声も出せなかったことがショックだった。

しかしそれで褒められたのだから良かったのか。

今年、夫婦揃って還暦を迎えた私たち。

年をとることは悪いことばかりではない。

慌ただしい年の瀬こそ、この調子で心穏やかに暮らそう 。