田舎に生きるふつうのおばさん2

北海道の田舎で農業を営むおばさんです

ヨウ子さんの家 旭川新聞 並木道 平成26年7月8日

昼間でも薄暗い林の中の坂道を上がって行くと突然視界が開ける。
そこにポツンとヨウ子さんの家がある。
ヨウ子さんは夫と力を合わせ鶏を飼い、キノコを育て、畑を耕して六十年近くをこの山の中で暮らしてきた。
五人の子供たちはここから巣立ち、家庭を持ち、今では十三人の孫が出来て、もうすぐ六人目のひ孫も生まれるれる。

子供たちもその連れ合いも孫たちもこの家が大好きで、よく集まっては飲んで食べて笑って夜通し騒いだ。
冬には薪ストーブが赤々と燃え、夏は蚊取り線香の煙が皆を包んでいた。
四季折々にヨウ子さんは餅をつき、家の周りには山菜が豊富で畑ではスイカやトウキビが良くできた。
それらが訪れるものたちの楽しみだった。

昨年、長年連れ添った夫が亡くなり、ヨウ子さんの最後の家族は二十五年も長生きした猫のモモだけになった。
寂しい気持ちを癒すかのようにヨウ子さんに寄り添っていたモモもほどなく、虹の橋を渡った。

最近になってヨウ子さんは、長野に住む長女の元へ引っ越すことを決めた。
長く屋根裏に住み着いていた貧乏神も、次の居場所を探してまもなく重い腰を上げることだろう。
林の中の道が落ち葉で埋め尽くされる頃には、私の愛しい生家が空っぽになる。