田舎に生きるふつうのおばさん2

北海道の田舎で農業を営むおばさんです

老人力         北海道新聞 北極星 2019/12/16掲載

  老人力 
 朝食に魚を焼く。

まるまる太ったイワシをいざ焼こうとグリルを開けると、

なんと前日のイワシが美味しそうに焼き上がってそこにいた。
 

 夕食の時、ご飯を温めようとレンジを開けると、

昼に温めてそのまま放置されたおかずが見つかる。
 

 認知症の初期症状の一つに「ながら仕事」ができなくなる、

というのがあるらしい。

食事の支度はまさに、ながら仕事の集大成。

味噌汁を作りながら一方でおかずも作る。

漬けものを切って魚を焼いて朝はそれに洗濯機を回し、

テレビに目と耳を奪われる。
 

 グリルやレンジの中に置き忘れはよくあることで、

気がついてがっかりはするが気に病むほどではない。
 

 そういうとき夫が必ず「すごいね、また一段と老人力が上がったね」

と褒めてくれるからだ。

皮肉ではなく本気で褒めるのだ。
 

 それがすんでのところで気がついて「あ~忘れなくて良かった」

などと言えば「さすがだね、よく気がついたね」ともっと褒められる。
 

 ともに白髪の生えるまで、

と誓った私たちも四十年の間にはいろいろあった。
 

 若い頃は相手の失敗を罵ったりもしたが、

今はお互いに手を貸すほどに優しくなった。

これも老人力か。
 

 夫婦の関係は鏡に向き合うようなもの。

優しくされてそう気がつくこの頃。