老人ホームにいる母から電話が来た
母からの電話は大抵ろくな話じゃない
母は男兄弟の中の女1人
小学3年生で母親を亡くし
戦中戦後の苦労は半端ないものだったと
時折聞く思い出話の中からも容易に想像がつく
兄二人弟1人と力を合わせて乗り越えてきたひとつの時代
そのうちの独り暮らしの下の兄(えいちゃん)のことが母は心配でしょうがない
今日の電話も えいちゃんが死んだ という電話
連絡しなきゃと思って と電話をくれた
母さんには誰から連絡来たの?
連絡もなにも目の前で見てたんだから
母さんは老人ホームにいるんでしょ 見られないでしょ
いや~そうかい? 変だね
それは夢を見たんだよ
もしホントに夢なら嬉しいけどねえ と母
安心して❗夢見ただけだから おじさんはピンピンしてるよ
認知症の人の言うことに逆らってはいけないとはよく聞く
他人なら
あらそうですか 大変ですね などとも言えるものだが
おじさんが死んだことをこちらが認めれば おそらくそのあとには
お通夜だ葬式だと騒ぎ立てるに違いない
母の頭のなかでは次々とストーリーができあがっていく
最近の母の良いところは夢だよ というとそれを認めるところだ
なんとか話を逸らして次の話題に移ったら
行方不明はどうなった?と聞いてくる
誰が行方不明なの?
和男兄さんさ
和男さんはとっくに死んでます
それが生き返って今なんか出稼に行ってるよ
というので大笑い
それはお元気で結構なことですね 今にお金送ってくるかもねえ
と私は答える
そういう話にはいくらでも乗れる
死んだ話には簡単に同意できない
えいちゃん兄さんは何度も母に殺されている
次に同じことを言われたら今度はは生き返った話に持っていこう
おかげで退屈しないわ