今年、久しぶりにフキを塩漬けにした。
冬期間の嬉しい保存食になる。
農地の周りに山菜はいろいろあるが、
山菜の旬の時季はちょうど農作業の最も忙しい時と重なる。
若い頃は代かきをしている夫のトラクターがあちらを向いた隙に、
近くの沢を駆け下りて大急ぎで蕗やウドを採ったものだ。
今そんなことを企てようものなら、足がもつれて怪我をするのがオチだ。
山菜に向かう思いに、重い体がブレーキをかける。
父が農業現役の時は、国の施策で増やせ増やせと、
山を削ってまでして水田を造った。
傾斜地の水田はあぜばかり大きくて石が多く、
ところどころに冷たい水が湧き、耕作にはとても苦労した。
しかしあぜにはたくさんの山菜が育っていて、
その時季は通うのが楽しみだった。
今はコメ余りの時代。
条件の悪い水田はあぜを崩して畑への転換が進んでいる。
段々だった水田は、だだっ広い一枚の畑になり、
あぜの山菜も姿を消した。
畑に転換してから、一度も行ったことがなかった。
広い畑の向こう端まではおよそ二百メートル。
昨年犬をお供に連れて初めて、
まき付け前の畑を横切って行ってみた。
驚いたことに、何もないと思っていたその場所には、
行き場をなくした湧き水が現れ、
一面に青々としたフキが育っていた。